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冨ちゃんは柳井市伊陸に住む幼なじみの女の子であった。ただ5歳離れていることもあって、始めのあいだは別に自分にとって特別な娘とは思っていなかった。ただ私が一人っ子であるので可愛い妹のような気持ちでいたが、祖母か母に連れられて遊びに行ったときのわずかの機会しか会わないので親しみがそんなにあったわけではない。

私の母と冨ちゃんのお母さんは女学生時代に玖珂郡のいろいろな親戚の集まりに祖母に連れられて行ったときに会ったことがあるそうだ。玖珂郡は私の祖母の出身地で私も子供時代に連れられて行ったらしいが私には記憶がない。二人の女学生は女学校に行くのが珍しい時代なので友達になろうねと言ったことがあると聞いている。富チャンのお母さんは結婚したが、夫に死別して、義理の父の面倒を見るため再婚した。昔から良くあるとり子、とり嫁となったらしい。親戚のあいだで戦地帰りの親戚のないこの人との再婚で良いかと問題になったが、私の祖母が好きなもの同士だからと賛成したことを冨ちゃんの両親は感謝している。

私にとって田舎といえばここを思い出す。高校生になって毎年夏に遊びに行くようになって急速に冨ちゃんが好きになってきた。毎年行くようになったのは向こうの親がもう大きくなったので一人で来れるじゃろうと言われて行く気になったのが始まりである。山口は田舎であるが、伊陸はもっと田舎で隣の家まで1キロくらい離れているし、家から見えるのは田んぼばかりである。夏休みにはだいたい1週間くらい滞在し、姉妹の勉強の面倒をみたり、自分の勉強をして過ごした。でも遊ぶほうが好きな私は二人の女の子とハヤを簡単な仕掛けで釣ったり、川を遡りながら網で取る様なことや小学生の子供がする遊びもやっていた。5歳離れているので私が高校1年のときは冨ちゃんは小学5年生であった。私は女の子と遊ぶのは好きでたとえ小学生でも遊んで楽しいと思うのは変なところである。

冨ちゃんには2歳下の妹がいた。彼女は普通のサラリーマンと結婚し、子供が二人のきわめて平凡な家庭を築き上げた。姉妹は競い合っていたが、仲が悪くはなかった。私が冨ちゃんを好きなことを妹も知っていたが、性悪な男のように二人の気持ちをもてあそぶことをしなかった。このおかげで今でも静ちゃんとは普通に話せて良かったと思っている。ただ妹の静ちゃんを好きになっていれば両親の反対もなく結婚できたと思うが、私は思い込みの激しい性格なので冨ちゃんと決めればそれ以後気持ちが変わることはなかった。美しい自然と緑豊かな田舎で楽しく遊んだのを懐かしく思い出す。ただ子供と思っていた二人もどんどん娘らしく成長し、私も高校生から大学生へ大きくなっていくのでいつまでも子供同士の遊びと言っていられなくなるのは当然だった。

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